イット イン ブラック

昔、学生時代になんかの先生から聞いた話

「昔ね、ぼくは高校を卒業したあと、東京の大学に行ったんだよね。
もちろん、見知らぬ土地で独り暮らしだよ。知り合いが誰もいなくってね。友達もできなかったの。

ある日、アパートの近くできれいな虫を見つけたの。
よく光ってとてもきれいなの。
先生って虫、好きだし、田舎育ちだったから虫捕りが得意だったの。
だからすぐに捕まえて、ビンに入れて飼ったんだよ。
野菜なんかあげて、名前つけてね。

そのうち、先生にも友達ができたの。
アパートに遊びに来てくれてさ。
それで先生、友達に虫を見せたの。
そしたら、
『おまえ、これ、ごきぶりじゃないか!!』
と叫ばれて、ビンは窓から放り投げられちゃった・・・」


ここからは私の話。
今回の話題はごきぶりなので、苦手な方はお読みにならない方が良いかもしれません。

ごきぶりは、速くて黒くて憎いやつ、と3拍子揃った嫌われている虫と聞いていますが、ごきぶりをほとんど見たことが無い私は憎くもなんともありません。
私、生まれも育ちもちゃきちゃきの蝦夷っこでございます。
暖房が普及したとはいえ、北海道の一般家庭にはごっきーは普通いないものです。

件の先生は、ごきぶりなんて直接見たことがなかったから、ごきぶりと捕まえた虫が同じものだとは気づかなかった、と言っていました。

私がごきぶりに対して持っている知識といえば、
漫画やTVドラマなどで、ごきぶりを見つけた人は必ず「きゃ
」と叫んで逃げるという決まりがあるなぁ、くらいなものでした。
あれは苦手なものを発見したときに必ず行わなくてはならない、様式美的行為のようです。
優れた科学力に支えられた未来から来た青いロボットも、ねずみを見たら叫んで飛び上がっているので、永遠不変の様式美です。

私は悩みました。
ごきぶりを見かけたら「きゃー」と叫ばなきゃいけないのか。でも自分にそんな黄色い声が出るだろうか。いや出ないだろう。

毎年暖かい時期に外出すると、道路の上をはっている毛虫を出勤途中でよく見つけますが、
「その辺の木の上にあげてやろうかなぁ、でも目的地と全然違っていたら毛虫は大迷惑するだろうし。う
ん、ほうっておくかなぁ、自転車に轢かれるんじゃないよがんばれよ
と心の中で声援を送る私です。
ごきぶりの一匹や二匹くらいあまり驚けないんじゃないだろうか。驚かなければ苦手にならないんじゃないだろうか。これでは様式美はどうなるのか。
私は苦悩しました。


そんなこんなで月日は流れ、昔勤めていた会社の出張でどこそこへ行ったとき、ほこりまみれだったり、廃墟同然の住居に住むことになりました。
清潔とは距離を隔てたその荒廃っぷりに、これはごきぶりが出るかなぁと思ったのですが、不思議と見かけませんでした。

まぁごきぶり駆除用アイテムを購入しないで済む分、財布に優しいのですが、ちょっと拍子抜け。もしかして私はごっきーに避けられている?

ある日、出張先の会社で残業していたときにそれはおきました。
疲れた私は事務所から廊下に息抜きに出ました。
暗い廊下をふらふら歩き、、隅に置いてあるなんかの創設者の銅像のところまで行きました。その台座が床に広げる暗い陰に浮かび上がる漆黒の虫っ!
けっこう大きいです。黒い。こっちを向いて、長い触角を互い違いに上下にゆっくり振っています。
いました、ごきぶり!!
さぁ観察しよう!
近づきかけて(『きゃー』と言ってみることはど忘れしていました)、ここで冷静になる私。
ごきぶりだと思うけれど、もしかしたら違うかもしれない。
私はこのごきぶり?との邂逅を確かなものにすべく、事務所に走って戻りました。

中にいた社員に尋ねます。
「すみませんが、廊下にごきぶりかなぁと思う虫がいるんだけど、違うかもしれないので、行って確かめてくれませんか?」
「嫌だ」
残業を切り上げてお菓子を食べていた社員はにべも無い返事。
まぁしかたがない。それでは観察すべしと、さっきの場所に取って返したら、ごきぶりらしき虫はいなくなっていました。
打ちひしがれた私はそれ以上仕事を続けることができないほどのショックを受け、心を涙に濡らして帰途についたのでありました。

まぁ、夜中の12時すぎだったので、帰っても問題なかったのだけが幸いでございました。

この話題は不動産の仲介・売買・管理のNIPPOビルの提供で伊藤がお送りいたしました。

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